世界で最も有名なストリートアーティスト、ゲリラアーティスト、アートテロリストバンクシー(Banksy)

世界で最も有名なストリートアーティストの一人で政治や社会問題に対する批判的なメッセージを込めた作品で知られているバンクシー。
反戦、難民、人種問題やパレスチナ問題、反資本主義などの政治的メッセージを発しているバンクシーは誰?

バンクシーは、イギリスを拠点とする謎のアーティストで、現代アート界で最も注目されるストリートアーティストの一人である。バンクシーの作品は、主にストリートアートを通じて、政治的・社会的メッセージを発信し、皮肉とユーモアを駆使して現代社会への批判を表現している。バンクシーの正体は明かされておらず、その匿名性が作品の魅力と影響力をさらに高めている。

バンクシーについていくつか知られている事実がある。バンクシーは1974年イギリスのブリストルで生まれた白人男性で、本名は「Robert Banks」という。E-mailだけで連絡を取り合っているバンクシーが一度だけ「ガーディアン紙」の対面インタビューをした時に知られた事実だという。バンクシーはコロナーの時期に自分のトイレに描いた絵を公開しながら「ワイプは私が在宅勤務していることを嫌っている」とコメントした。この時初めて結婚しているという事実が知られるようになった。

バンクシーは1990年代にイギリスのブリストルで活動を開始した。当初はグラフィティアーティストとして活動していたが、徐々に独自のスタイルを確立した。バンクシーの作品は、ステンシルと呼ばれる型紙を用いた手法を多用しており、細かいディテールと即時性を備えたメッセージ性の強い作品を街角に描くことが特徴である。ステンシルアートは短時間で作品を完成させることができるため、警察などから逃れるためにも効果的である。

バンクシーの作品は、時事問題や政治、環境、資本主義、戦争、そして人権問題など、幅広いテーマを扱っている。

<Laugh now, but one day we’ll be in charge> 2002

バンクシーの初期作品の多くは、イギリスの街中にある壁にゲリラ的に制作されている。

この作品はバンクシーが無名の時に描いたものだといわれ、社会的地位の低い若者の気持ちを表現しているとされている。 首から下げている看板には「Laugh now, but one day we’ll be in charge(今は笑え、でもいつか自分たちが取りまとめるようになる)」と書かれている。

<パルプ・フィクション:Pulp Fictio>2002

クエンティン・タランティーノ監督の有名な映画「パルプ・フィクション(Pulp Fiction)」の主演2人を描いた作品。ロンドンのオールド・ストリート駅近郊の壁に描かれた。

本来は2人が銃を構えたシーンのはずだが、バンクシーが描いたのはバナナである。

非常に人気があったグラフィティ作品だが、ロンドン交通局により消去されてしまった。

しかしバンクシーは同じ場所に、バナナの着ぐるみを着た二人をまた描いた。バンクシーのユーモアセンスが伺える作品である。

<花束を投げる男 (Flower Thrower)> 2003

この作品は、中東の紛争地域に描かれたもので、手に花束を持った男が火炎瓶を投げるポーズをしている。暴力ではなく、愛や平和を投げるべきだというメッセージが込められており、戦争や暴力へのアンチテーゼを表現している。

<Napalm:ナパーム>2004

真ん中に描かれた裸の少女は、1972年6月8日に撮影されたベトナム戦争でアメリカの空爆から逃げる子供達の写真から抜き出されたものである。新聞や文学、写真など、報道関係で顕著な活躍をした人に与えられるピューリッツァー賞を1973年に受賞した、有名な写真だ。

アメリカの資本主義を象徴するミッキーマウスとロナルド・マクドナルドに手を引かれている様子は、「アメリカ化」「グローバル企業による児童労働や搾取」「戦争」などに対する、バンクシーの皮肉や反対メッセージが読み取れる。

<赤い風船と少女 (Girl with Balloon)>2006

「赤い風船と少女」はバンクシーが長年描き続けるモチーフの一つである。少女が風船に手を伸ばすシルエットで描かれたこの作品は、無邪気さや純粋さを象徴し、また「愛は決して失われない」というメッセージも込められていると解釈されている。赤い風船は希望の象徴であると言われている。2018年にこの作品がオークションで落札された直後、バンクシーの仕掛けによって作品がシュレッダーにかけられる「自壊事件」が話題を呼び、アートの商業主義を批判するものとして注目された。

<バスルームの窓からぶら下がる裸の男:Naked Man>2006

浮気現場であろうことが一目で想像できるこの絵は、取り除くべきかどうか?という論争を巻き起こした1枚である。

この絵が描かれた当時のイギリスでは、グラフィティアートは市議会によって取り締まられ、落書きとして扱われて消されるのが普通だったが、この絵は、取り除くべきか?そのままにするのか?という論争を巻き起こし、投票を行うことまでになった。 最終的には、残すべきという多くの支持を集め、そのまま残されることで異例の作品である。

<兵士と少女>2007

銃を置き、両手をあげる兵士と身体検査をする少女。兵士と少女の役割が逆になっているこの絵は、イスラエルの抑圧への皮肉や批判、パレスチナの開放というメッセージを含んでいると言われている。

現在は、パレスチナ自治区のお土産屋さんの中に保存されている。

<ロバと兵士:Donkey Documents>2007

パレスチナとイスラエルを分断する高さ8メートルの壁に描かれた。

この絵をパレスチナへの侮辱と捉えたタクシー運転手は、友人らと連携してこの絵を壁ごと切り取り、オークションサイトに出品して話題にもなった。一連の流れからこの作品は問題作と言われ、「バンクシーを盗んだ男」と言うドキュメンタリー映画の題材にもなった。

<花を持ってたたずむ男>2007

マンハッタンにあるストリップ劇場のシャッターに描かれていた。 うつむき気味な男性が持つ花束からは花びらが散り、哀愁漂う様子が描かれている。失恋や孤独といった言葉を連想させる、情緒的な作品である。

<PARKING>2010

ロサンゼルスの地上駐車場の横の壁に、2010年に描かれたこの作品には、ブランコに乗る少女の絵が描かれている。

「PARKING」から、“KING”を消して「PARK」になっていることから、子供たちの遊び場であった公園が駐車場へと姿を変え彼らの遊び場が失われているというメッセージが込められていると言われている。

<落ちるまで買い物をする:Shop ‘til You Drop>2011

ショッピングカートとともに落下している女性は、落下しているにもかかわらず、その手を放さずカートを握りしめている。

この絵はロンドンの高級ショッピング街のビルに描かれており、消費社会・格差社会への風刺を表現しているように受け取られる。この作品はビルのかなり高い部分に描かれており、どのように描いたかも話題になった。

<If Graffiti Changed Anything…>2011

ロンドンのフィッツロヴィアに描かれたもの。女性活動家で知られるエマ・ゴールドンの「If voting changed anything they’d make it illegal(もし選挙で世の中が変えられるなら、選挙を禁止しているはずだ。)」というスローガンを自分のメッセージに置き換えた作品である。

<奴隷労働>2012

ロンドンのウッドグリーン地区にある「Poundland」という、1点1ポンド均一のお店(日本でいう100円ショップ)の壁に描かれもの。エリザベス女王即位60周年を祝う祝賀式典の旗を作り、低賃金で働かされる少年が描かれている。

この作品は後に壁から撤去されオークションにかけられたが、一体所有者はバンクシーなのか、建物の所有者なのか、撤去した人物なのか、大きな議論を呼んだことで話題になった。

<GHETTO 4 LiFE>2013

「ghetto」とは、ユダヤ人街やユダヤ人強制収容所のことを意味している。アメリカでは特定の貧困地域、貧民街のこと、または黒人などを指す場合もある。

「ghetto」という言葉は文脈によって多くの意味を持つため、この作品は貧困地域住民の生活に対する風刺・批判・人種差別であるなどの様々な論争を巻き起こした。

バンクシーの作品には、社会や政治の状況に対する痛烈な批判が込められている。例えば、環境問題に対しても強い意識を持っており、動物実験や自然破壊に反対するメッセージを含む作品も制作している。また、バンクシーはアートが巨大な商業主義や消費文化に取り込まれることにも反発しており、前述の「Girl with a Balloon」事件のように、アート市場への批判的な立場を表明している。

バンクシーは公式の展覧会をほとんど開催していないが、2009年にはロンドンの美術館で「Banksy vs. Bristol Museum」という展覧会を開催した。この展覧会では、バンクシーの作品が市民や芸術愛好家に直接触れる機会が与えられ、無料で公開された。また、彼の「Dismaland」というテーマパーク風の展示も、消費文化や広告業界に対する風刺的なアートインスタレーションが話題となった。バンクシーは、こうした活動を通じて、美術館やギャラリーの外にアートを持ち出し、人々に身近な場所で直接アートに触れる機会を提供している。

バンクシーの作品は、ストリートアートがアートの一分野として認められるきっかけとなり、多くの新しいアーティストに影響を与えた。また、作品を通じて社会的なメッセージが発信されることで、多くの人々が現代社会の問題に目を向けるようになった。匿名であることでバンクシーの作品は純粋にアートとして評価され、また「誰でも発言できる自由」がアートの世界で体現されていると感じさせる。

バンクシーは単なるアーティストではなく、現代社会における声なき者たちの代弁者として活動している。バンクシーの作品は、ステンシルアートというシンプルな手法ながら、世界中の人々に深いメッセージを伝え、社会の不平等や矛盾を浮き彫りにしている。その匿名性と挑発的なメッセージが、バンクシーを特別な存在とし続けているかも知れない。